マンジャロについて思うこと
明日、11月14日は「世界糖尿病デー」です。
糖尿病の新しい治療薬である「マンジャロ」(一般名 チルゼパチド)が「痩せる薬」として今メディアなどで大きく取り上げられています。
特に痩身・ダイエット目的や美容目的でオンライン通販などで気軽に購入し、その副作用で体調を崩したりすることが問題となっており、私もメディアの方からそれについて意見を求められることがあります。
「マンジャロ」はもともと糖尿病の治療薬として開発され、膵臓からのインスリンの分泌を助けて血糖値を下げるのがその作用の中心です。もうひとつの作用が脳に直接働いたり、胃腸の動きを抑えることで、食欲を抑制し、食べる量が減ることで体重を減少させる働きです。
これまでの糖尿病の治療薬には、体重を減らす効果は少なく、むしろ増やしてしまうことが多く、問題となっていました。また、これまでの治療薬は、血糖値が下がり過ぎてしまう、いわゆる「低血糖」の副作用が大きな問題でしたが、「マンジャロ」などの最近の治療薬は血糖値が高い時だけ作用するため低血糖をほとんど起こさずに血糖値を下げることができるようになりました。
この、「血糖値を下げすぎない」という作用が重要で、そのためにこの治療薬はもともと血糖値が高くない、糖尿病でない人にも、血糖値が下がりすぎる心配なく使用できることになります。
そこで、その体重減少効果に注目し、この薬剤を「肥満症」の治療薬として再度開発試験を行い、生まれたのが「ゼップバウンド」です。「マンジャロ」と「ゼップバウンド」は名前が違いますが、実際の成分は同じ「チルゼパチド」です。
現在、日本でも「マンジャロ」は2型糖尿病の治療薬として、「ゼップバウンド」は肥満症の治療薬として承認されています。そうした経緯で、現在「マンジャロ」が「痩せる薬」として注目され、一部で本来とは違う目的に使用されてしまっているのだと思います。
「マンジャロ」や「ゼップバウンド」は、2型糖尿病や肥満症に対する画期的な治療薬ですが、医薬品ですので副作用がまったくないわけではありません。「薬(クスリ)」は逆さに読めば「リスク(危険)」になります。使用法を間違えると思わぬ副作用で健康障害を生じるリスクがあります。基本的には「2型糖尿病」や「肥満症」ではない人が、さらなる痩身・ダイエット目的や美容目的で使用するのは避けるべきです。
ただしここでもう一つの問題があります。現在わが国で「肥満症」に対して「ゼップバウンド」を用いた治療が行えるのは「教育研修施設」と呼ばれる大学病院や地域の基幹病院などに限定されています。したがって逆に言えば、そういう病院に通院できる方しかこの治療が受けられないというのが現状です。さまざまな理由で病院に定期的に通院できない患者さんは多く、そういった方が保険診療ではない「自由診療」という形で自費でお薬を購入されているのも現実です。
「マンジャロ」の自由診療が大きく注目される理由にはそういった側面もあり、本来治療の適応のある「肥満症」の方が、病院に通えないためにその治療を受けられないという状況が、早く改善されることが望まれます。
院長
